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「馬券裁判」の概要

大阪市在住の男性A氏は、市販の競馬予想ソフトを独自に改良し、その ソフトによる予想を基に平成19~21年にかけて、総額で約30億1千 万円の払戻金を得た。
また、この期間に購入した馬券の総額は、約28億7千万円である。 しかし、「払戻金は『一時所得』に該当」し、そのため、<経費は的中 馬券の購入費のみである>と云う大阪国税局の判断により、所得税約5億 7千万円を追徴課税されるに至った。

※刑事訴追部分については、割愛させて頂きます。

 

所得税法における一時所得とは、「利子・配当・不動産・事業・給与・ 退職・山林及び譲渡以外の所得で、営利を目的とする継続的な行為から生 じた所得以外の所得のうち、労務その他の役務の対価である性質をもって いないもの」と定義されます(所得税法34条1項)。
平たく云えば<苦労せずに偶然手に入った利益>であります。

そして、この一時所得の計算は、下記の式となります。

{(総収入金額)-(その収入を得るために支出した金額)-50万円}×1/2

 

馬券裁判の争点は、畢竟『「外れ馬券」は経費となるのか』と云う点に 集約されます。
上記の一時所得の計算式に在る「その収入を得るために支出した金額」 とは、「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の 発生に伴い直接要した金額に限る」とされています(所得税法34条2項)。

この文言通りに解釈すると、なるほど、外れ馬券は経費となりません。
外れ馬券は、的中馬券の払戻金に何の関係もないからです。
そのため、税務当局の判断のような強烈無比の課税が発生しました。

しかし、法律の文言解釈は当然重要ですが、収入(所得)に関する実質 的なアプローチも考慮しなければなりません。

この点で、先ず平成25年5月23日の大阪地裁判決では、A氏の馬券 購入の在り方を「FX取引等に類似した資産運用の一種」と判断し、馬券 購入行為から得た所得を「一時所得」ではなく「雑所得」と認定しました。
そして、外れ馬券を「その所得を生ずべき業務について生じた費用」と して、払戻金から差し引くことを認めた結果、所得税は5,200万円に 減額されました。

更に当該地判の控訴審である平成26年5月9日の大阪高裁判決でも、 大阪地判とは理論構成が異なるものの、A氏の馬券購入から得られた利益 を「雑所得」と判断し、外れ馬券を経費とすることを認めました。

この大阪高判の後、大阪高検が上告したので、この馬券裁判は最高裁ま で縺れ込むことになりました。
また、上記の大阪地判後に、北海道で同様の馬券の払戻金脱税事案が発 生しましたが、札幌国税局は大阪地判に倣わず、外れ馬券を経費とせずに 課税しようとしましたので、現在、東京地裁で係争中です。
よって、最高裁の判断が待たれるところであります。

さて、私見ではございますが、私が競馬マニアという主観的事情を排除 して考えても、大阪地判及び大阪高判判決は、至極妥当であると考えます。
しかし、こうした利得が本来一時所得として捉えられることも事実では ありますので、所得税法の規定に則れば、当局が下した判断も誤りである と断じることはできません。
そう考えると、この係争を機に「一時所得の特例」として、馬券購入に よる払戻金から得た利益の計算方法を別段で定めること等を検討してもら いたいものです。

余談ですが、A氏の立場でみると、そもそも課税が発生するなどとは夢 にも思っていなかった筈です。私もこの仕事に就くまでは、馬券の払戻金 は宝くじと同様に非課税と思っていましたので(良く見ると、馬券の裏面 に注意書きがあるのですが)。
ここで、「インターネット購入のスケープゴートだ」とか「競馬場の窓 口に税務職員が常駐するのか」とか「パチンコはどうするんだ」とか等の 重箱の隅を突くような議論を展開するより、<運よく手に入った収入にも 何らかの制約があるのかもしれない>と留意して、法律と云うものを自分 なりに考え直す機会にしたいものです。


・2015年6月23日 配信


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